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論文・書籍等の紹介

完全側臥位法の理論と実践を深める

重度嚥下障害患者に対する完全側臥位法による嚥下リハビリテーション : 完全側臥位法の導入が回復期病棟退院時の嚥下機能とADLに及ぼす効果

福村 直毅  , 牧上 久仁子  , 福村 弘子  , 田口 充 , 大澤 麻衣子  , 茂木 紹良

総合リハビリテーション 40巻10号 (2012年10月)
要旨:〔目的〕筆者らは嚥下障害患者の摂食時の体位について検討し,フラットなベッド上で側臥位(完全側臥位)をとると重力の作用で中~下咽頭の側壁に食塊が貯留し,誤嚥リスクが減少することに気付いた.重度嚥下障害患者に対し,回復期リハビリテーション病棟で完全側臥位での経口摂取・直接嚥下訓練を行い,嚥下および身体機能に対する効果を検討した.〔方法〕2004年6月~2011年7月までに鶴岡協立リハビリテーション病院回復期リハビリテーション病棟に入院時に藤島嚥下グレード1であった60歳以上の患者を対象とした.悪性腫瘍など嚥下障害と無関係の急変例と,先行期・口腔期の障害が主で咽頭期に障害がなかった症例を除外した23名を,完全側臥位法を実施した患者(完全側臥位群)と実施しなかった患者(対照群)に分け,FIM利得(退院時FIM-入院時FIM),退院時の藤島嚥下グレードについて検討した.〔結果〕完全側臥位群9例,対照群14例の計23例について分析した.藤島嚥下グレードの中央値は完全側臥位群7点,対照群4点と,完全側臥位群で有意に高かった.発症直前および入院時のFIM得点は両群で差がなかったが,退院時のFIM利得は完全側臥位群40.1,対照群15.9と完全側臥位群が大きい傾向があった.〔考察〕完全側臥位法は重症嚥下障害患者のリハビリテーションに効果があった.本法は咽頭の解剖学的構造に重力が働くことを活かした,再現性に優れた嚥下補助技法である.

重度嚥下機能障害を有する高齢者診療における完全側臥位法の有用性

工藤 浩, 井出 浩希, 中林 玄一, 後藤 貴宏, 若栗 良, 岩田 尚宏, 黒木 嘉人

日本老年医学会雑誌 2019 年 56 巻 1 号 p. 59-66

抄録
目的:重度嚥下機能障害を有する高齢者診療における完全側臥位法の有用性について検討した.方法:2015年2月から2017年10月に当院に入院し,嚥下機能障害が疑われNSTが介入した142例(全例嚥下内視鏡検査(VE)施行)中,従来の誤嚥予防対策では安全な経口摂取は困難な重度嚥下機能障害と診断された65歳以上の高齢者47例に完全側臥位法を導入した.完全側臥位法導入が安全な経口摂取と転帰に及ぼす影響について,完全側臥位法未実施群(対照群)と比較検討した.結果:平均年齢は85±8.3歳,男女比は32:15,初回VEで全例に重度の嚥下機能障害(兵頭スコア8.16±2.0点)を認めた.完全側臥位法導入後,栄養療法,リハビリテーションの併用により,血中Alb値,Barthel indexの改善も認め,対照群と比較し,経口栄養での退院が有意に増加(26.5→53.2%)した.退院症例25例中13例は再び座位姿勢でも安全に食事摂取が可能となった.死亡退院21例の死因病名は老衰10例が最も多かった.完全側臥位群では老衰による終末期の症例でも安全な経口摂取が可能となり,対照群と比較し死亡までの平均欠食期間が有意に短縮(17.3→7.3日)した.退院後に在宅でも完全側臥位法を継続し,再入院することなく1年後に自宅で穏やかな最期を迎えられた症例も経験した.結論:完全側臥位法は重度嚥下機能障害をもつ高齢者の安全な経口摂取に高い効果を認めた.安全な食事摂取が栄養状態の改善,リハビリによる機能強化にもつながり,経口栄養での退院増加に寄与した.完全側臥位法は特別な器具,手技を必要とせず簡便で負担の少ない手法であり,言語聴覚士が不在の市中病院や在宅,重症患者でも容易に継続できることが確認された.本手技が嚥下機能障害を有する高齢者診療におけるブレイクスルーとなり得る可能性が示唆された.